僕が大学生の頃の話。
初めて合コンというヤツに参加した。
参加した合コンは、男女3on3。
男側は僕、小学校からずーっと一緒の同級生、そして主催者でもある、小学生時代からの友達。
女性側は主催者の高校の友達3人だ。
お洒落に興味の無かった僕も、この日はお洒落しなくては、と
当時自分の持っている服の中で一番お洒落だと思っていた
カラフルなミッキーマウスの顔面が9個、縦横3×3で並んでいるTシャツを着て参加。
あんまり詳しく覚えていないけど、確か新宿の歌舞伎町辺りの安い居酒屋さんで
夜7時頃かんぱい。
人見知りを隠しながら、なんとか場を盛り上げられるようにボケたりして頑張る。
かんぱいから1時間程過ぎた頃、
ある女の子から、僕達男子陣に質問。
「私って誰に似てる?」
昔オンエアバトルかなんかで見たことがある。合コンではこういう質問が飛んでくる、と。
僕は「本当にこんな質問が飛んでくるのか」と思いながら、答えを探す。
誰に似ているか、を考えるのではない。
誰に似ていると言われたいのかを考えなくてはならない。
僕の中で、彼女が誰に似ているか、というシンプルな問いの答えであれば、
そんな質問がくる前から、ずっと頭の中にあった。
バナナマンの日村だ。
目元とか諸々が、バナナマンの日村にそっくりで
僕はずーっと「バナナマンの日村に似てるなぁ」とか、
なんなら
昔イロモネアで日村がサイレントなのに急に「バカカラス バカーバカー」って喋り出してたなぁ
くらいの事まで考えていた。
しかし、この「私って誰に似ている?」という問いに対しての答えとして
バナナマンの日村は確実に間違いである。
そのくらいの事は、偏差値が45しかなかった僕でも分かっている。
正解は、誰に似ているかではない。
誰に似ていると言われたいか、だ。
この問いの答えが出るまでの間、
「バナナマンの日村」は
ハリーポッターで言うところのヴォルデモートのように、
名前を言ってはいけない存在だ。
そんな事は頭では分かっている。
分かっているが、言いたい。
どうしても日村だと言いたい。
日村と一度口にするまでは、他の芸能人の名前を口に出せない。
そのくらい日村の口になっていた僕は
隣の席にいた小学校からの友人に
バナナマンの日村に似ているよね、と
喉元につかえていた日村を耳打ちした。
その日1番の大笑いをする友人。
それを見て「一体何を言ったんだ」と興味津々にこちらを見てくる女性陣。
僕も友人も、こんな形で女性陣の視線を釘付けにするなんて、夢にも思っていなかった。
「え?誰って言ったの??」
と僕達に問うヒムラ姉さん。
僕は喉元の日村を吐き出せたので、
もう堂々と別の有名人の名前を言える。
「新垣結衣に似てるねって伝えたんだ」
これで現場は収まるかと思ったが、そんなに甘くは無かった。
「新垣結衣に似てないし、新垣結衣ならそんなに笑わないだろう」
と、ベテラン刑事の如く僕達に詰問するヒム姉。
なんとかこの場を乗り切らなくては、と
たりない頭をフル回転させて咄嗟に僕は
「性別が違うから失礼かもしれないんだけど」と前置きをして「成宮寛貴に似てると思ったんだ」と伝える。
これで、笑いの理由は「男じゃねえかよ」と笑っていたんだよ、みたいな方向に話を持っていけると確信していた。
しかし、ヒム姉の目は鋭いままだ。
「いや、あの笑い方は成宮の笑い方じゃ無かった」
さながら
名探偵ヒムラ、とでも称したくなるような推理力。
僕はかんぺきだと思っていたアリバイを崩されてしまい、途方に暮れてしまった。
名探偵ヒムラは、僕達に続けて言う。
「絶対に怒らないから正直に言ってくれ」、と。
僕は観念して、誰も幸せにならない真実を自白することにした。
僕が大好きな芸能人の、バナナマンの日村さんに似ている、と。
どんな罵声が飛んできてもしょうがない。全ての十字架を背負おうと決めていた僕に対して飛んできたリアクションは
予想していたものとは大きく違っていた。
その日一の爆笑。
もう一人の友人だけでなく、女性陣まで爆笑している。
ヒム姉の顔色を確認すると、ヒム姉も「いや、ヒムラじゃねーわ!」と、笑いながらツッコんでいるではないか。
良かった。僕は許されたんだ。
彼女達はお笑いが好きで、ある程度色々笑ってくれるのか。
安堵した僕は、「せっかくならばもうひと笑いとってやる」と次のボケを重ねてみた。
「日村じゃないなら、子供の頃の貴乃花かな?」
一応若い人のために説明をすると、
子供の頃の貴乃花のモノマネを、バナナマンの日村が昔よくテレビでしていたので
「それも日村じゃねーかよ」系のツッコミが飛んでくると踏んでのボケだ。
さぁ、突っ込んでくれよ、と思っていた僕に飛んできた言葉は
また予定外の言葉だった。
「なんでそんな酷い事言うの!!」
怒るヒム姉。
見誤った。ヒム姉さんは決してお笑いが好きで笑ってた訳ではない。
その場の雰囲気を崩さないように、なんとか笑ってくれていたのだ。
そして気付いた。
僕の貴乃花発言が、
ヒム姉さんが笑える、心のコップに、最後の一滴として垂れてしまったのだ、と。
その後、僕のせいで最悪の空気で会は解散。
ちなみに彼女が言われたかった答えは「aiko」だったらしい。
しんじつは、いつもひとつ。
でも、その真実は正解とは限らないのだ。